分子標的療法

分子標的薬が登場するまで、抗がん剤と言えば「増殖速度が比較的速い細胞」をターゲットとする作用機序が一般的でした。つまり、正常細胞を含めた不特定多数の細胞が標的となっていたのです。そうではなく、「細胞の増殖や浸潤、転移などに関わるがん細胞特有の分子をターゲットとする」という考えに基づいて創生されたのが分子標的薬です。分子標的薬はがん細胞のみを標的としているため、正常細胞への影響を出来るだけ少なくするように設計されています。そのため、「髪が抜ける」など抗がん剤の典型的な副作用が認められなくなった代わりに、分子標的薬特有の副作用が出現することがわかっています。

分子標的薬には「小分子化合物」と「モノクローナル抗体」の二種類があります。小分子化合物の一般名では、最後にイブ(ib)と付けられ、モノクローナル抗体の場合ではマブ(mab)と付けられます。

主な作用機序

分子標的薬の作用機序としては、主に以下の三つに分けられます。

1. シグナル伝達阻害

細胞分裂や増殖などの過程において、シグナル伝達が必要不可欠です。このシグナル伝達系を阻害することが出来れば、細胞増殖を抑制することが出来ます。分子標的薬では、がん細胞に高発現しているシグナル伝達系に作用することで抗がん作用を示します。分子標的薬のターゲットとして重要であるチロシンキナーゼはこのシグナル伝達系に関わっています。

2. 血管新生阻害

細胞が必要とする栄養や酸素などは、血管を流れる血液から運ばれ、特に、急激な細胞増殖を行う際はより多くの栄養を必要とします。そこで、がん細胞は栄養を効率よく取り入れるために、自分のところへ新しく血管を作ってしまう。これを血管新生といいます。したがって、この血管新生を阻害することが出来れば、がん細胞は栄養不足となるため細胞増殖が抑えられます。

3. 細胞周期調節

細胞分裂において、細胞は「G1期→S期→G2期→M期」と細胞周期が回転することによって増殖します。この細胞周期の回転を、ある部分でストップさせることが出来れば細胞増殖が抑制されます。細胞周期に関わるターゲットとしては「CD20」や「プロテアソーム」など様々です。

最終更新日:2014年10月1日

(C)佐賀大学医学部附属病院血液・呼吸器・腫瘍内科