白血病幹細胞

1. 慢性骨髄性白血病における幹細胞化因子の探索

近年、白血病や他の悪性腫瘍においても、「白血病(腫瘍)幹細胞」という概念が広く使われています。つまり、全て同一と思われてきた白血病(腫瘍)細胞にも階層があり、幹細胞の性質を持った細胞と、それから分化した腫瘍細胞とで白血病もしくは腫瘍を形成する、という考えです。実際に実験的にも証明されており、この白血病(腫瘍)幹細胞が、治療抵抗性や再発の主な原因になっているとされています。私達は、主な疾患ターゲットをとして白血病、特にCMLに焦点をあて、CML幹細胞特異的な因子の探索を行っています。そして、そこから得られた知識を幹細胞特異的治療、つまり、「がんの治癒」に結び付けつけるべく研究を進めています。

2. 正常造血幹細胞特異的マーカー、造血幹細胞同定法の開発

CML幹細胞は、正常細胞でいうところの造血幹細胞を発生母地とします。現在、CML幹細胞をターゲットとする薬剤の開発が世界中で行われていますが、そのためには、元となる造血幹細胞の性質をよく理解することが必要です。では、その造血幹細胞について、全てのことが解明されているのでしょうか?

答えはNo!です。まだまだ、造血幹細胞の性質や骨髄内でのふるまいについては不明なところも多く、これらを明らかにすることでよりCML幹細胞に有効な治療法の開発が可能となります。したがって、私達は正常造血幹細胞を極限まで純化できるマーカーを探求しています。そして、その細胞を使って幹細胞自己複製のしくみや、生体内でのふるまいを明らかにしたいと考えています。

3. 包接化合物シクロデキストリンの抗腫瘍作用

分子標的薬剤の登場は、がん化学療法の在り方を一変させました。しかしながら、分子標的療法をもってしても「がん幹細胞」を完全に駆逐するには至らないのが実情です。したがって、新たな他の機序を有する薬剤の開発が望まれています。私達は、白血病細胞を含む、がん細胞の多くが、正常細胞に比べて細胞内コレステロールを多く含有することに着目しました。シクロデキストリンはでんぷん由来の環状オリゴ糖であり、安全性、機能性、安定性、経済性に優れることから、現在30カ国以上で食品、化粧品、サプリメント、医薬品、家庭用品、バイオテクノロジー、塗料などに応用されています。もう一つの特徴として細胞からコレステロールを引き抜くという作用があります。この働きを白血病治療に生かせないか、と現在研究しています。

Selected references (*corresponding author)

1) Yokoo M, *Kubota Y, Motoyama K, Higashi T, Taniyoshi M, Tokumaru H, Tabe Y, Mochinaga S, Sato A, Sueoka-Aragane N, Sueoka E, Arima H, Irie T, Kimura S. 2-Hydroxypropyl-β-cyclodextrin acts as a novel anticancer agent. Submitted.

2) Tanaka Y, Hayashi M, Kubota Y, Nagai H, Sheng G, Nihiskawa S, Samokhvalov IM. Early ontogenic origin of the hematopoietic stem cell lineage. Proc Natl Acad Sci U S A 109: 4515-4520, 2012.

3) *Kubota Y, Osawa M, Jakt LM, Yoshikawa K, Nishikawa S. Necdin restricts proliferation of hematopoietic stem cell during hematopoietic regeneration. Blood 114: 4383-4382, 2009.

最終更新日:2014年10月1日

(C)佐賀大学医学部附属病院血液・呼吸器・腫瘍内科