GVHD/GVL・ATL

私たちは、2013年に発足したばかりの新しい研究グループです。できるだけベッドサイドに近い立ち位置で、「免疫学という眼を通して」血液疾患をみるという角度から、複数のプロジェクトを進めています。現在進行中のテーマは、以下の通りです。

MEK阻害剤を用いた、同種造血幹細胞移植後のGVHDおよびGVL/GVTの制御

難治性の血液疾患において、同種造血幹細胞移植は大変魅力的な治療法ですが、GVHD(移植片対宿主病)は今なお深刻な合併症です。近年はいくつかの新たな免疫抑制剤により、重症GVHDの頻度は減少していますが、過度の免疫抑制はGVL/GVT効果(移植片対白血病・腫瘍効果)や感染免疫をも抑制するため、原疾患の再燃や日和見感染症を招くことが今なお問題です。近年の研究により、GVHDを起こすのはT細胞のうちでナイーブT細胞と呼ばれる細胞群で、GVL/GVTや感染免疫を担うのはメモリーT細胞と呼ばれる細胞群である、と考えられるようになりました。代表者の進藤岳郎は米国留学中に、MEK阻害剤がナイーブT細胞を選択的に抑制し、メモリーT細胞を温存すること、またGVHDを抑制することを見出し、発表しました(Shindo T, et al. Blood 2013 (Plenary Paper))。現在はこの発見をさらに進展させ、その作用を詳しく検証するとともに、MEK阻害剤を用いたヒトでの臨床試験を行う準備実験を重ね、『GVL/GVTを温存したGVHD治療法の確立』を目指しています。

 

成人T細胞白血病(ATL)をめぐる免疫学

ATLは難治性造血器腫瘍の一つですが、臨床現場では2012年に大きな進展があり、新薬モガムリズマブが臨床現場で用いられるようになりました。本薬剤はATL細胞上のCCR4という蛋白質に作用するモノクローナル抗体ですが、制御性T細胞上のCCR4にも作用し、その結果T細胞およびNK細胞の両方を介した抗腫瘍免疫を強化することが分かってきました。振り返ればこれまでの経験から、ATLでは同種造血幹細胞移植による抗腫瘍免疫がよく奏功することが知られています。現在はモガムリズマブのT細胞およびNK細胞免疫への作用やその治療効果を決定する因子、さらにはHTLV-1感染からATL発症に至るまでのホスト免疫の関与につき、さまざまな免疫学的解析を行っています。究極的にはモガムリズマブのより効果的な投与法および、抗腫瘍免疫を最大限利用したATLに対するより優れた同種移植法の開発を目指しています。

 

この他にも、学内外のいくつかのグループと共同で、複数の研究プロジェクトを推進しています。その気になって目を凝らしてみると、臨床現場には大変興味深い免疫学的テーマがたくさん存在し、それらを解決することは優れた治療法の開発に直結しています。上記の内容に留まらず、少しでも興味を持たれた方は、気軽に下記までご連絡下さい。

進藤岳郎 E-mail: takeros@cc.saga-u.ac.jp

最終更新日:2014年10月1日

(C)佐賀大学医学部附属病院血液・呼吸器・腫瘍内科