慢性骨髄性白血病は、21世紀に入るまで造血幹細胞移植が成功する以外、「不治の病」でした。それが、薬の進歩によって「ほぼ死なない病気」になり、さらに一部の症例では「完全に治る」ことまで期待されるようになってきました。
慢性骨髄性白血病は、著明な白血球や血小板の増加をきたし、無治療の場合、数年の慢性期、その後数ヶ月の移行期、そして急性転化期を経て死亡する血液悪性疾患です。胃がんや大腸がんなど、ほとんどの”がん”は、複数の遺伝子の異常が積み重なって発症しますが(多段階発がん)、慢性骨髄性白血病はbcr-ablという唯一1個の遺伝子の異常から産生されるBCR-ABLという異常な蛋白質によっておこる病気です。遺伝子の異常によっておこる病気ですが、この異常は生まれてから後に生じるもので、子供や孫に遺伝をすることはありません。
1990年以前の主な治療薬は、抗がん薬でしたが、生存期間の延長はみられませんでした。1980年代中頃からインターフェロン・アルファ が用いられるようになり、生存期間が少し延長はしましたが、効果は不十分でした。そのため造血幹細胞移植のみが、治癒することが確認されていた唯一の治療法でした。しかし造血幹細胞移植では、少なからず治療関連死があること、また適切なドナー(造血幹細胞の提供者)がすべての患者さんで見つけられないことにより、全員が受けられる治療法ではありませんでした。
慢性骨髄性白血病の原因であるBCR-ABL異常蛋白質が悪さを働くには、この異常な蛋白質にアデノシン3リン酸 というエネルギーが結合することが必要です。2001年に発売されたグリベック(一般名:イマチニブ)は、エネルギー結合部位に結合することで異常な蛋白質の働きを抑えて白血病細胞をやっつけます。グリベックはそれまでの治療法と比較して、圧倒的な効果を示したため、発売後すぐに第一選択薬となりました。グリベックでの治療を受けた慢性期慢性骨髄性白血病患者さんの8年目の全生存率は85 %ととても良好です。これまで、グリベックは生涯服用し続けなくてはいけないと考えられていましたが、グリベックの内服によって2年間以上、異常な遺伝子が検出されない患者さんの約4割は、中止後も再発がないことが分かってきました。グリベックの副作用として、吐気や嘔吐、下痢などの消化器症状や、体液貯留、筋肉痛、けいれん、皮疹などが一般的に経験されますが重篤なものはまれです。そして副作用でもっとも重要なのが白血球減少および血小板減少などの血液毒性です。
これほどすばらしいグリベックですが、ごく一部の患者さんで効果が無かったり(耐性)、副作用でどうしても継続できない方がおられます。そのためグリベックの耐性克服や副作用の軽減を目的に、第2世代と呼ばれる新薬が開発され、すでに2009年3月よりスプリセル(一般名:ダサチニブ)とタシグナ(一般名:ニロチニブ)が日本でも使えるようになりました。スプリセルとタシグナは、一般的にグリベックと比較して数十倍~数百倍、異常な蛋白質の働きを抑える効果が強く、そして副作用も少なくなっています。スプリセルとタシグナにも、それぞれ長所、短所があります。したがって、グリベックが効きにくくなった時には、その耐性原因や患者さんの体質に応じてスプリセルかタシグナのどちらかが使用されます。
スプリセルやタシグナなどの新薬を慢性骨髄性白血病と診断されて最初から服用することで、グリベックより高い効果が得られることも分かってきました。そのため、最近では多くの患者さんで、診断後最初からスプリセルやタシグナが使用されるケースが増えてきました。
以上のように、慢性骨髄性白血病の治療法の進歩は非常に早く、今後ほとんど全ての患者さんが完全に治ることも目指せる時代が来ることが期待されています。
最終更新日:2014年10月1日
(C)佐賀大学医学部附属病院血液・呼吸器・腫瘍内科