非結核性抗酸菌症

結核と同じ抗酸菌属に属する仲間に、非結核性抗酸菌があります。現在約150種の非結核性抗酸菌が発見されていますが、そのうち10種類程度は人に対して病原性を持ちます。代表的なものとして、Mycobacterium avium(マイコバクテリウム アビウム)、Mycobacterium intracellulare(マイコバクテリウム イントラセルラーレ)があり、合わせてMAC(マック)症と呼びますが、これが全体の70%程度を占めます。Mycobacterium kansasii(マイコバクテリウム カンサシ)によるものが20%程度、残りの10%程度はその他の稀な細菌によります。
昔からある病気ですが、近年この非結核性抗酸菌症に罹患している人は増加しています。結核に似た症状・病態だったので当初は混同して考えられていましたが、結核と最も異なる点は「人にうつらない」ことです。

結核と異なり、非結核性抗酸菌は土や水、食物や動物など、環境中にもともと生息しています。感染系路として呼吸器系からの感染と、水や食物を介する消化器系からの感染があると言われています。自然界に普通に存在しているので、誰もがそれを体内に取り込む可能性がありますが、ほとんどの人で取り込んだ非結核性抗酸菌により病気を発症することはありません。けれども、もともと呼吸器疾患の既往があり、肺の構造に異常がある人(肺結核後遺症、気管支拡張症など)や、免疫力の低下した人(糖尿病や透析患者、高齢者、術後患者、免疫抑制剤内服中の人)では、吸い込んだ非結核性抗酸菌症が定着して病気を引き起こす可能性が高いと考えられます。また、近年ではこれらの素因がなく元気であるにも関わらず発病する人が増えており、なぜか痩せた中年女性に多くみられる傾向があります。

特に症状がなく、住民検診などで胸部レントゲン異常陰影として偶然発見される例も多くみられますが、非定型抗酸菌症の症状としては、咳・痰(時に血痰)、微熱などがあります。特に、気管支病変のため、病気の重さとは関係なく血痰が出ることがあるので、慌てて病院を受診し、この病気の診断に至る方もおられます。

診断のためには、喀痰から非結核性抗酸菌が複数回検出されることが必要です。もともと自然界に存在する菌なので、1回のみの検出では診断に至りません。また、喀痰からの検出率も高くはありませんので、度重ねて喀痰検査をしなければ検出できないことも多く、診断が難しい病原体です。菌の名前がわかるまでの数日間は結核菌と区別がつかず、結核として対応しなければならない場合もあります。

治療については、Mycobacterium kansasiiによるものでは、抗結核薬への反応が良いため、結核に準じた抗生物質による化学療法で治癒させることができます。しかし、それ以外の非結核性抗酸菌症では、治療薬への反応は必ずしも高くはなく、病気の進展をある程度抑えることはできても、完全に治癒させることは難しいとされています。たくさんの薬を複数年(2~3年)と長期に渡って内服する必要があり、副作用もあります。そのため、自覚症状が乏しく、画像上も悪化がない場合は、あえて内服薬による治療を行わず経過観察を行い、病状が悪化した時に治療を検討することもあります。空洞があって排菌が止まらず、病変が限局している場合には、外科手術も有効な治療選択肢となります。
ただし、非結核性抗酸菌はもともと弱毒菌であり、本来ならば体の抵抗力により抑え込むことができるはずです。内服薬や外科手術はそれ自体が体の抵抗力を増強するわけではありません。非結核性抗酸菌症に感染したとしても、毎日の生活を整えて、元気にハツラツと日々を送ること自体が治療になります。規則正しい生活を送り、食事は栄養バランスを考えながらしっかり摂取すること、ストレスをため込まないこと、適度な運動で痰を動かし、喀痰を毎日しっかり喀出すること、菌の住み着きやすい水回り環境(シャワーヘッドなど)の衛生状況を保つことなどが大切です。そして定期的な診察、画像検査により肺野の状態を確認しましょう。

最終更新日:2014年10月1日

(C)佐賀大学医学部附属病院血液・呼吸器・腫瘍内科