人間の胸部は肋骨や筋肉からなる胸郭と呼ばれる外殻に包まれており、内部を胸腔と呼びます。胸腔内には左右の肺、肺の間に心臓が収まっています。肺はきめの細かいスポンジにラップを巻いたような構造をしていますが、このラップを胸膜と呼びます。何らかの原因で胸膜に孔が開くと、肺から空気が漏れて胸腔の中に貯留し、肺が空気に押されて潰れてしまう(虚脱)ことで、胸痛や呼吸困難感をきたします。
最も多いのは「自然気胸」で、10歳台後半~20歳代に多く、長身でやせ形、胸の薄い男性に多くみられます。自然気胸では、肺尖部に近い胸膜の一部がブラと呼ばれる小さな袋を形成し、これが突発的に破裂することで発生します。初回の自然気胸で、はっきりとしたブラがCT検査などでも見つからないときは内科的治療(脱気、胸腔ドレナージ)の適応ですが、しばしば再発を起こすことが問題で、内科的治療では約50%が再発するとされます。そのため、手術のターゲットとなる明らかなブラが見つかっている場合を中心に、外科的手術を行う例も増えており、手術後には再発率を5%程度まで減らすことができます。
肺気腫や肺癌など原因となる疾患に続発して起こる気胸は、続発性気胸と呼ばれます。その他、外傷性気胸や月経随伴気胸などもあります。
気胸は肺の虚脱率に応じて、軽度・中等度・高度・緊張性に分類されます。軽度の気胸では安静として経過をみるだけで、自然に空気が吸収されて回復することもあります。中等度・高度気胸では、胸腔ドレナージを行います。胸腔ドレナージでは局所麻酔下に胸壁に2㎝程度の孔を開け、細い管(トロッカーカテーテル)を留置し、胸腔内貯留した空気を体外に排出します。トロッカーカテーテルはドレーンボトルに接続し、外から空気が逆流しないようにする必要があります。この場合、入院が必須となりますし、ボトルを持って歩く必要があるため行動に制限があります。最近ではより細いカテーテル、より小さなボトルで、胸部に張り付けることで外来治療を可能とした機具(ソラシックベントやソラシックエッグ)も利用できるようになっています。肺が膨らんで空気漏れがなくなったら、管の抜去を行います。緊張性気胸は生命に危険のある状況です。漏れ出した空気の量が多い場合、胸腔内が陽圧になって心臓や、心臓に戻る静脈を圧迫し、循環動態が保てなくなります(ショック)。緊急で胸腔内の空気を外に出して陽圧を解除する必要があります。胸腔ドレナージを行っても空気漏れが持続する場合には外科的手術の適応です。
最終更新日:2014年10月1日
(C)佐賀大学医学部附属病院血液・呼吸器・腫瘍内科