6/10-12に松山で開催されたがん分子標的治療学会で、当科の板村先生が優秀ポスター賞を受賞しました!
受賞に際しての文章が同学会ニュースレターに掲載されたので、学会の許可を得て転載します。
「MEK阻害剤を用いた造血幹細胞移植後GVHDの抑制と抗腫瘍免疫の温存」というテーマで、2月のBMT Tandem Meetings(サンディエゴ)で発表した内容に新規実験結果を加えた内容です。
頑張って論文化し、実地臨床で難治性GVHD治療の新しい道を開くことができれば、と思います。
(以下、原稿本文)
ポスター賞受賞に際して
佐賀大学医学部 血液・呼吸器・腫瘍内科
板村英和
この度は思いもかけず第19回 日本がん分子標的治療学会学術集会 ポスター賞に選んでいただき、驚いております。会長の今村先生を始め、選考委員ならびに本学会の先生方には心より感謝申し上げます。
私は元来、血液内科医として臨床に携わっていました。同種造血幹細胞移植は、そのままでは治癒を望めない難治性造血器腫瘍に治癒をもたらし得る魅力的な治療オプションです。しかしドナーT細胞による免疫反応である移植片対宿主病(Graft-versus-host-disease ; GVHD)は大きな障壁であり、実際私は何度も悔しい思いをしました。
GVHDを来すのは未分化なnaïve T細胞であり、機能分化したmemory T細胞は抗ウイルス免疫や抗腫瘍免疫などのいわば有益な反応を担うと考えられています。進藤らはT細胞におけるMAPKカスケードの一分子であるERKのリン酸化に着目し、MEK阻害剤によりnaïve T細胞を選択的に抑制できる一方、memory T細胞を温存できる事をヒト細胞で見出しました。この報告に基づき、マウスGVHDモデルでの解析を行い、京都府立医大の酒井先生らが開発され、米国では既に悪性黒色腫で承認されている、MEK阻害剤 trametinibを用いることでGVHDを抑制し、また同時に抗腫瘍免疫(Graft-versus-Tumor effects : GVT)を温存することが可能か検証を行いました。
放射線照射したレシピエントマウスにドナーマウスの骨髄とT細胞を移植し、GVHDを発症させるというモデルを複数構築しました。当初はこれまで基礎研究へのなじみがなかった私にとってマウスを扱い実験を行う事は患者への診療・処置とは比較にならないくらいハードルが高く、不器用な私はよくマウスに噛まれたものでした。そのような手探りの中から始まった解析結果からは、trametinib投与群において有意に生存の延長に加え、体重減少の抑制や下痢などGVHD症状が改善している事を認めました。またtrametinibはドナーCD4および8陽性T細胞中のERKのリン酸化を抑制し、naïve T細胞分画を温存、memory T細胞への機能分化を抑制しました。病理組織学的にも、trametinib投与群では大腸・皮膚でのGVHD症状が改善しました。
一方、骨髄移植時に腫瘍細胞株P815を同時に輸注すると、マウスは早期に腫瘍死を来たしますが、T細胞を輸注するとGVT効果によりその生存が延長します。P815とT細胞を移植した上でtrametinibを投与しても、vehicle投与群に比して生存の短縮はみられず、GVT効果がtrametinib投与によっても損なわれないことが示唆されました。またtrametinib投与群の生存はむしろ延長している傾向である事、脾細胞への障害の軽減なども見受けられ、これはtrametinibに伴うGVHDの抑制効果も併せて発揮されていると考えられました。
以上より、マウスモデルにおいて分子標的薬であるtrametinibは選択的にGVHDを抑制し、なおかつGVT効果を減弱することなく温存できる事が示されました。本研究結果を受け、早期に臨床試験を開始し、GVHDで苦労する現場の医師や患者さんへ福音を届けられるようにより一層精進したいと思います。
最後になりましたが、本研究に関して御指導いただいた進藤岳郎先生、木村晋也教授をはじめ、多数の共同研究者の方々に深く御礼を申し上げます。
進藤岳郎先生と板村英和先生
木村晋也教授と板村英和先生
最終更新日:2015年9月2日
(C)佐賀大学医学部附属病院血液・呼吸器・腫瘍内科